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平成27年度司法書士試験憲法 第2問

平成27年度司法書士試験憲法 第2問


平成27年度第2問

内閣に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

ア 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負うため、ある国務大臣につき両議院で不信任決議案が可決された場合には、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

イ 内閣総理大臣について、衆議院と参議院とが異なった指名の議決をしたため、法律の定めるところにより、両議院の協議会が開かれたが、そこでも意見が一致しなかった場合には、衆議院の議決が国会の議決となる。

ウ 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。

エ 法律及び政令には、全て主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

オ 国会議員でない国務大臣は、国会議員から答弁又は説明のため出席を求められた場合に限り、議院に出席して発言することができる。

1 アイ  2 アオ  3 イウ  4 ウエ  5 エオ


こちらは単純知識問題と言ってもいいだろうと思われます。というか、ただの条文問題と言えば、そのとおりです。

統治分野に関してはこのように条文さえ覚えていれば楽勝という問題は多いのですが、こうした知識も断片的に覚えこむのはそれなりに大変だとは思います。司法試験の受験生であれば、憲法の条文くらい覚えましょう、と言いたいところですが、憲法がマイナー科目でしかない司法書士試験で、そこまでの労力を払える人がどのくらいいるのか、正直なところ私にはわかりません。

そこで、問題2については、(1)常識レベルでの解き方、(2)条文の確認とそれによる正誤判断、(3)補充解説を行います。憲法を勉強する余裕が全くない方は(1)、そこまでではないが単純記憶に自信がある方は(2)で十分です。ですが、(3)で、条文の関連について簡単に触れましたので、余裕があれば読んでおいていただけたらと思います。どのような知識であっても、関連付けがあれば覚えやすく忘れにくいものですから、条文の意味を常に考えながら勉強するヒントになるかもしれません。

(1)常識レベルでの解き方

まず、ざっと問題文を見通してみましょう。まず、ひっかかるのがアだと思います。

まず、「国務大臣につき不信任決議案が可決されたら」衆議院を解散、または、総辞職って、そんなのその国務大臣を辞めさせればすむじゃないですか。別に、内閣全部がだめだよ、っていってるわけじゃないでしょ?

さらに、「両議院で不信任決議案が可決された」ときに、「衆議院を解散」って、参議院はどうなるのって話です。不信任決議を出されて、それで総辞職に追い込まれちゃうわけですが、その対抗措置というか民意を問うために議会を解散するわけです。参議院は、内閣を総辞職に追い込めるけど解散はないんですか?

このあたりから、まずアはおかしいでしょ?ってわかると思います。

そうすると、1のアイ、2のアオのどちらか?と思いたいところですが、実は、そこに落とし穴があることもありますので要注意。

この問題、誤っているものの組合せはどれか?と聞いていますが、誤っているものが二つだけなんて言っていないんですよ。仮に、(仮に、です)アとウとエが違っていたら、4のウエが間違いってことになるわけです。

その点だけは注意してくださいね。

それで、一応、イとオを見てみると、イは衆議院の優越がどのように決められているか、という知識ですので、常識とまでは言えない気がします。憲法を勉強していない人には難しいかもしれません。

一方、オですが、国務大臣の議院出席義務自体は、ときどきニュースになっていますね。平成25年に安部首相が参議院の問責決議を受けたのも、参議院予算委員会の出席要求を拒否したことからでした。

一方、議会からの出席要請がない場合はどうか。最近では、司法書士試験の筆記試験後になりますが、本年9月に安部首相が、安全保障関連法案に関する参議院の特別委員会に出席せず、大阪でテレビに出演していたことで、民主党のみならず、鴻池委員長からも批判されました。これは、重要法案であるため、内閣総理大臣としては当然に委員会にて議案を説明することが期待される中、それをせずにテレビに出ていたので批判されたわけです。出席要請がないと出席できないのであれば、このような批判を受ける必要はありません。

この事件そのものは、残念ながら試験後だったわけですが、国会中継を見ている人ならば国務大臣がしょっちゅう国会に来ているのはご存知じゃないでしょうか。これを毎回、国会が出席要請をしていると考えるのも不自然な話で、当たり前のように法案の説明に来ていると考えた方が自然ですね。というか、実際には先例によって正規の出席の要請手続き(国会法71条)は省略されちゃっているわけです。

そうしたことを考えると、オも間違っていることがわかりそうですね。これで何とか、2のアオが間違いの組合せであることを確定できます。

(2)条文の確認とそれによる正誤判断

ここでは憲法の条文を確認してください。この問題は条文さえ覚えていれば正答できます。

ア 内閣不信任

ア 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負うため、ある国務大臣につき両議院で不信任決議案が可決された場合には、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

憲法69条は衆議院の内閣不信任について規定していますが、
1)これは内閣不信任であって、国務大臣についての不信任決議については憲法上の規定はありません。
2)これは衆議院についてのみ。参議院の「内閣不信任決議」については憲法上の規定はありません。

第六十九条【衆議院の内閣不信任】

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

ですから、この選択肢は二重の意味で間違っています。

イ 内閣総理大臣の指名

イ 内閣総理大臣について、衆議院と参議院とが異なった指名の議決をしたため、法律の定めるところにより、両議院の協議会が開かれたが、そこでも意見が一致しなかった場合には、衆議院の議決が国会の議決となる。

憲法67条第2項は、内閣総理大臣の指名について、衆議院と参議院の異なった指名の議決をした場合に両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、衆議院の議決が国会の議決になることを定めています。

第六十七条【内閣総理大臣の指名、衆議院の優越】

(1)内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
(2)衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

というわけで、イは正しいですね。

ウ 国務大臣の訴追

ウ 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。

これは憲法75条ですね。内閣総理大臣の同意がなければ在任中は訴追されません。しかし、訴追の権利は害されませんので、国務大臣を辞任した後であれば訴追されることになり、公訴時効も停止します。

第七十五条【国務大臣の訴追】

国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は害されない。

というわけでウも正しいですね。

エ 法律・政令の署名・連署

エ 法律及び政令には、全て主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

こちらは憲法74条です。

第七十四条【法律・政令の署名・連署】

法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

こちらのエも正しいです。

オ 国務大臣の議員出席

オ 国会議員でない国務大臣は、国会議員から答弁又は説明のため出席を求められた場合に限り、議院に出席して発言することができる。

国務大臣は、何時でも議案について発言するため議院に出席することができます。なお、ここでいう議院には委員会も含まれます。

第六十三条【国務大臣の議院出席】

内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

というわけで、オは間違っていますね。出席を求められた場合に限りません。

(3)補充解説

議院内閣制

日本国憲法は、議院内閣制を採用しています。この議院内閣制の本質には議論がありますが、その要素としては、
① 議会と内閣の分立
② 内閣の議会に対する連帯責任
③ 内閣の議会の解散権
の3つが指摘されます。

① 議会と内閣の分立

①の議会と内閣の分立に関して、議院内閣制は大統領制と比べて、緩やかな分立を取っていて、議会と内閣の相互協力関係が重視されています。

そこから
・67条の内閣総理大臣の指名を国会が行い、その結果、国会の多数派の意見が反映されること(67条)
・国務大臣の過半数が国会議員(68条1項ただし書)
・国務大臣は、議院に出席する義務のみならず、出席権を持つ(63条)
などが規定されるわけです。

② 内閣の議会に対する連帯責任

次に、②の内閣の国会に対する連帯責任は憲法66条3項が規定しています。
「連帯して責任を負う」ということから、
・国務大臣・内閣総理大臣の署名・連署(74条)
・衆議院の内閣不信任決議権(69条)
が発生するわけです。

また、連帯して責任を負うべく、内閣の一体性を担保するものとして、内閣総理大臣の首長性が強められています。(これは明治憲法と比較すると明らかです。)
・国務大臣を「任意に」罷免できる(68条2項)
・国務大臣は総理大臣の同意がなければ訴追されない(75条)。

③ 内閣の議会の解散権

議会の内閣不信任決議権(69条)に対応するのが、③の内閣の議会の解散権です。この内閣の議会解散権が、議院内閣政の本質的要素かどうか、議論が分かれていますが、ここでは深入りは避けたいとおもいます。

補足:参議院による内閣不信任決議

内閣は行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う立場にありますから、内閣が責任を十全に果たしていないと考えられる場合には、参議院ももちろん、その責任を問うこと自体は可能です。その場合には、法的効果のない「決議」という形で行われます。これがいわゆる問責決議というものです。これは言葉通り、責任を問う決議という意味ですね。

ただし、現行憲法の初期には、参議院には内閣に対する不信任の意思表示をする権能はないと理解されていました。ですから、この時期の問責決議は数自体が少なく、責任を問うといっても、不信任の意思表示ではなく、反省を促すという意味のものでした。しかし、田中角栄首相のロッキード事件を期に、単なる反省を迫るという問責から、内閣総理大臣や国務大臣の責任を追及し、さらには内閣に対する不信任の意思を表示する性格のものとなりました。こうして、内閣総理大臣個人に対する問責が、内閣に対する不信任を意味するようになったわけです。やがて「ねじれ国会」となると問責決議の政治的な意味はますます大きくなります。こうして参議院において、内閣総理大臣に対する問責決議が可決されるケースが続くようになり、参議院の内閣の責任を追及する手段としての問責決議案というものが定着するようになったわけです。

以上のように、参議院が内閣不信任あるいは内閣総理大臣や国務大臣への問責を決議したとしても、それは法的効果のない決議に過ぎず、政治的効果しかありません。しかし、もともと63条3項のいう「責任」とは、法的責任に限定するものではなく、内閣が議会に対して負う政治的責任のことを指しています。そして、議会による不信任ということの政治的効果は、実はかなり大きいものですから、法的効果を持つ衆議院の不信任決議にのみ注目すべきではないと思います。

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