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憲法29条3項の「正当な補償」について

憲法29条3項の「正当な補償」について

憲法29条3項の要求する「正当な補償」とは、結局のところ完全補償なんですか?それとも相当補償なんですか?

憲法29条3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と規定しています。

ご質問のとおり、ここでいう「正当な補償」が、いわゆる完全補償なのか、相当補償なのか、かつて争いがありました。

完全補償というのは、市場価格による補償、その財産の市場価格の全額補償が必要という考え方でした。それに対して、相当補償というのは、読んで字のごとく、それ相当の補償、市場価格以下でもいいので、合理的に算出された相当な額を補償すればよい、ということです。

① 戦後の農地改革の際には、大地主の土地をきわめて安く強制買い上げを行い、小作農に分配しました。これが29条3項に反しているとの訴えに対し、最高裁は相当な価格でよいと判示しました。

② その後、昭和48年には、最高裁は、改正前土地収用法72条に基づく土地収用の補償額が争われた事件で、完全な補償が必要だと判示しました。(土地収用法事件、最判昭和48・10・18)

③ さらに、平成14年には、最高裁は、昭和42年改正後土地収用法71条に基づく補償額の基準時が争われた事件で、相当な補償でよい、としました。(改正土地収用法事件、最判平成14・6・11)

これだけ見ると、最高裁は、あっちいったり、こっちいったりしているように見えます。①の事案は、かなり特殊としても、②と③は一見、矛盾しているように見えます。

ですが、実は、②の判決がいう「完全な補償」というのは、「収用の前後を通じて被収用者の財産価値を」等しくするようなものであり、近くの同じような土地を買える金額、としていました。

一方、③の判決は、土地収用法71条が合憲である理由として、相当な補償でよい、ということと、土地収用法71条の補償額は合理的で、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくさせるものだと評価できる、という2点を挙げています。(やや細かくなりますが、補償金支払制度を利用することで、前倒しした支払いを受け、近所で同じような土地を所得できます。)

つまり、具体的には同じようなことを、②では完全な補償といい、③では相当な補償としています。実際、下級審の裁判例を見ると、土地収用法71条は完全な補償であるから合憲である、としているものもあるわけです。

つまり、最高裁の合憲の基準は、収用前後での財産の等価値であり、「完全」か「相当」か、ではない、ということが言えるわけです。

それでも、なぜ、最高裁が、完全な補償とせずに、相当な補償としたのか、議論はありますが、「常に市場価格と一致する補償」という硬直した判断に束縛されることを避け、より実質的な判断をしやすいものを選んだというところかもしれません。

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