憲法、憲法判例、憲法学習法

過去問学習を考える(行政書士試験平成27年度第5問から)

過去問学習を考える(行政書士試験平成27年度第5問から)



平成27年度第5問のテーマと判例

受験生が、今年度は憲法9条が出た、と言って騒いでいました。私は、「憲法9条はまず出ないでしょうね」と言っていたので「ありゃ、参ったな」と思っていたのです。

でも、問題を見て安心(ん?なんで?)これって憲法9条プロパーの問題じゃないじゃん。

実は今回の問題と同じテーマである私法上の法律関係を、最近だと平成25年第4問が扱っていました。その中の選択肢4で、今回の素材判例である百里基地訴訟(最判平1・6・20)が取り上げられていました。

それはこんな選択肢でした。

平成25年第4問選択肢4 自衛隊基地建設に関連して、国が私人と対等な立場で締結する私法上の契約は、実質的に公権力の発動と同視できるような特段の事情がない限り、憲法9条の直接適用を受けない。

この百里基地訴訟(最判平1・6・20)は、私人間効力の応用問題で、私人同士ではないけれど、国家が私法上の行為を行ったときに憲法の適応があるか、という問題を扱ったものでした。その中での平成27年度のこの出題。実は、この出題の複線は平成18年にさかのぼるのですが、その話は後にして、まずは平成27年度第5問を見てみましょう。

それにしても、判例の並び替えというのは、本当に法的思考が身についているかを見るのに良い問題ですね。ただ、時間がない中でこういう問題がでると焦るかもしれません。

平成27年度第5問

問題5  次の文章は、自衛隊基地建設のために必要な土地の売買契約を含む土地取得行為と憲法9 条の関係を論じた、ある最高裁判所判決の一部である(原文を一部修正した。)。ア〜オの本来の論理的な順序に即した並び順として、正しいものはどれか。

ア 憲法9 条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない優れて公法的な性格を有する規範である。

イ 私法的な価値秩序において、憲法9 条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範が、そのままの内容で民法90 条にいう「公ノ秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはない。

ウ 憲法9 条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によつて相対化され、民法90 条にいう「公ノ秩序」の内容の一部を形成する。

エ 憲法9 条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範にかかわる私法上の行為については、私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである。

オ 憲法9 条は、人権規定と同様、国の基本的な法秩序を宣示した規定であるから、憲法より下位の法形式によるすべての法規の解釈適用に当たつて、その指導原理となりうるものであることはいうまでもない。

1  ア イ ウ エ オ
2  イ ウ エ オ ア
3  ウ エ オ ア イ
4  エ オ ア イ ウ
5  オ ア イ ウ エ



こういう問題は、とにかく、各選択肢の要点をつかむことが先決ですね。

ア 憲法9 条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない優れて公法的な性格を有する規範である。

9条の規範は公法的なものだというのですね。

イ 私法的な価値秩序において、憲法9 条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範が、そのままの内容で民法90 条にいう「公ノ秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはない。

私法的価値は民法90条などによって形成されていますが、こいつは憲法的価値がそのままの形で民法に流れ込んでいるようなものじゃない、一応、別の価値秩序だっていうわけですね。

ウ 憲法9 条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によつて相対化され、民法90 条にいう「公ノ秩序」の内容の一部を形成する。

憲法9条の規範は、私法的な価値秩序に相対化された形で民法90条の内容を形成するんだ、ってことですね。

エ 憲法9 条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範にかかわる私法上の行為については、私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである。

憲法9条に関わる私法上の行為が無効かどうかは、直接に憲法9条違反かどうかで判断するんじゃなくて、私法的価値のもと、反社会的だとか公序良俗に反するとか思われているかどうかで、判断すべきだっていうんですね。

オ 憲法9 条は、人権規定と同様、国の基本的な法秩序を宣示した規定であるから、憲法より下位の法形式によるすべての法規の解釈適用に当たつて、その指導原理となりうるものであることはいうまでもない。

憲法9条は、憲法ですから、それは憲法より下位の法形式の解釈や適用については、指導原理になる、って言ってます。

これらの選択肢を見てみると、要するに、
1)憲法は憲法だし、指導原理だよね。(オ)
2)でも憲法9条って統治に関する、とっても公法的なもの。(ア)
3)だから、憲法9条がそのまま私法的価値秩序に流れ込んで、公序良俗とかを決定するんわけじゃないんです。(イ)
4)それは、私法的な価値によって相対化され、私法的価値とあいまって公序良俗という判断を形成しているわけね。(ウ)
5)私法行為の判断は、憲法9条違反だから公序に反してる、とかじゃなくて、私法的価値のもとで判断すべきでしょ、ということ。(エ)

というわけで、答えは、オ⇒ア⇒イ⇒ウ⇒エ ですね。

問題の背景

百里基地訴訟

さて、最初に言ったように、これって百里基地訴訟ですよね。

百里基地訴訟は、国が航空自衛隊の基地建設のため建設予定地を購入したことが、憲法9条違反になるか争われた事件なんです。

まあ、基地のための土地購入と、たとえば自衛隊が鉛筆を買ったって話と一緒にしていいのか、という問題はあるんだけど、判例は、この土地の購入は私法上の契約でしょ、っていうわけです。それで判旨ですが、

① 憲法98条1項の「国務に関するその他の行為」は、公権力を行使して法規範を定立する国の行為である。
② 憲法9条は私法上の行為に対しては直接適用されるものでなく、国が関与した行為であっても、私人と対等の立場にたって、私人との間に個々的に手帰結する私法上の契約は、実質的に公権力の発動である行為と変わらないといえる特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私法の適用を受けるにすぎない。
③ 憲法9条は公法的な性格のものであり、そのまま民法90条の公序良俗の内容を形成するわけではない。自衛隊のために国と私人が私法上の契約を結ぶことは、私法的価値秩序において、社会的に許容されない反社会的行為であるという認識が確立していたわけではないので、公序良俗違反ともいえない。

というわけなんですが、これって実はとっても重要なことを言っている判決なんですよ。

平成18年第3問の問題意識

皆さん、簡単に、憲法の私人間効力は間接適用、って言ってるけどね、間接適用って何なんでしょうか。実は、私人間効力ってのは、近年議論が活発な分野なんですね。

この問題意識はすでに平成18年の第3問で扱われています。これは判例の立場に近いものを選べと言う問題。

そのときの選択肢3は以下のようなものでした。皆さん、これが判例の趣旨にあっているか、あっていないかわかりますか。

3 日本国憲法は価値中立的な秩序ではなく、その基本的人権の章において客観的な価値秩序を定立している。この価値体系は、憲法上の基本決定として、法のすべての領域で通用する。いかなる民法上の規定もこの価値体系と矛盾してはならず、あらゆる規定はこの価値体系の精神において解釈されなければならない。

この選択肢の考え方は最高裁の考えとは違います。リュート判決型といわれる間接効力説の原型的な考え方のひとつ。憲法の価値秩序は、私人間に対しては私法の解釈を通して貫徹されるという考えです。これも間接適用説ですね。

実はこの問題、選択肢の中に、直接適用説、無適用説に近い間接適用説(判例型)、直接適用説よりの間接適用説(リュート判決型)を並べて、判例の立場を選ばせています。

最高裁=間接適用説と考えている方は戸惑ってしまうかもしれません。

でも、三菱樹脂事件で最高裁が展開した「間接適用説」は、自由や平等に対する具体的な侵害のおそれがあるときは、民法1条や90条、および不法行為に関する諸規定の適切な運用によって、私的自治の原則と、自由や平等の調整を図れるとしています。

要するに、私的自治との調整を図るのは私法原理である民法1条や90条、さらに不法行為なわけです。憲法は直接には規律しないんですね。

選択肢3:憲法は私法領域にも私法の解釈を通して貫徹するのだ(リュート判決型の間接適用説)

最高裁:いや、私法領域は私法の原理である1条や90条やらで調整するよ
(最高裁の間接適用説)

一部学説:最高裁って実は無適用説なんじゃないの?

出題者からのメッセージと過去問学習

上に書いたようなことをすっ飛ばして、単に最高裁判例=間接適用説、と覚えていたら、ここの選択肢を正しいと判断してしまってもおかしくありません。

出題者は、平成18年の出題において、最高裁=間接適用説、というマニュアル方式の学習に対して、ある種のメッセージを出していると考えられます。そして、その後、平成25年第4問にも、この私人間効力が出題されたわけです。

そこで取り扱われた百里基地訴訟の大切な点は、憲法9条は民法90条の公序良俗の内容をそのまま形成するわけじゃなく、民法原理で調整される、と言ったこと。つまり、ここで最高裁は、リュート判決型の間接適用説をはっきり否定しているんですね。

これが平成25年に出題されたということは、「受験生は、私法領域における憲法の適用(間接適用)がどのようなものかを学んでおくべきだ」と出題者が考えていたことが推測されます。

過去問というのは、出題者からのメッセージです。過去問学習を通して、その出題者からのメッセージを受け止めた勉強をしていれば、今回の問題5はやさしいはずでした。

厳しいことを言えば、問題5が難しかったということは、過去問を勉強しているようで、実は、過去問の答えだけを覚えただけ、という可能性もあるわけです。どうか、過去問の答えを覚えてOK、あるいは、判例の結論を覚えてOKという勉強方法をとらないようにお願いします。

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